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事件一覧/袴田事件

袴田事件

袴田 巖(はかまだ いわお)

狭義の冤罪無罪確定

1966年、味噌工場で一家4人が殺害。従業員の袴田巖が逮捕され死刑判決を受けたが、58年を経て2024年に無罪確定。裁判所は証拠捏造を認定。

逮捕年
1966
無罪確定年
2024
期間
58年
確定判決
確定審:死刑 / 再審:無罪
都道府県
静岡県
地域
中部
捜査機関
静岡県警
時代
現代
刑事手続き進行度
捜査
逮捕
起訴
一審
控訴審
上告審
確定
服役
再審
逮捕起訴一審有罪控訴審有罪上告審棄却死刑確定服役再審無罪
通過有罪等無罪等進行中

タイムライン

事件不利有利手続事後
1966.06事件発生

清水市の味噌製造会社専務宅で一家4人が殺害・放火される

1966.08袴田巖 逮捕

弁護士の立会いなく連日長時間の取調べ

1日平均12時間超の取調べが約20日間。録音録画なし。袴田氏は元プロボクサー、当時30歳
捜査:静岡県警清水署
1966.09起訴

強盗殺人・放火の罪で静岡地検が起訴

1967.085点の衣類発見

事件から約1年2ヶ月後、味噌タンク内から血液付着の5点の衣類が発見

この「5点の衣類」が有罪認定の中核的証拠に。後に捏造の疑いが認定される
1968.09一審 死刑判決

静岡地裁が死刑判決を言い渡す

裁判官・熊本典道は無罪の心証を持ちながら多数決で死刑に同意。後年「耐えられなかった」と実名で告白。45通の自白調書のうち1通のみ採用
裁判長:石見勝四 陪席:熊本典道
1976.05控訴棄却

東京高裁が控訴を棄却

1980.11上告棄却・死刑確定

最高裁第一小法廷が上告を棄却。死刑が確定

逮捕から14年で死刑確定。以降、東京拘置所で死刑囚として拘置される
1981.04第1次再審請求

弁護団が静岡地裁に再審請求を申し立て

1994.08第1次再審請求 棄却(静岡地裁)

請求から13年を経て静岡地裁が棄却

1994.08弁護団が即時抗告(東京高裁へ)

棄却決定に対し東京高裁に即時抗告

2004.08即時抗告棄却(東京高裁)

東京高裁が即時抗告を棄却。地裁棄却から10年

2008.03特別抗告棄却(最高裁)→ 第1次終了

最高裁が特別抗告を棄却。第1次再審請求は27年で完全に終了

1981年の申立てから27年間。この間に袴田氏の精神状態は著しく悪化し、拘禁反応が深刻化していた
2008.04第2次再審請求

姉・袴田ひで子を中心に静岡地裁に第2次再審請求

弁護団が独自DNA鑑定を実施。犯行着衣のDNAが袴田氏と不一致。検察側は裁判所の求めに応じ約600点の証拠を開示
弁護団長:西嶋勝彦
2014.03再審開始決定・釈放(静岡地裁)

静岡地裁が再審開始を決定。死刑・拘置の執行を停止。47年7ヶ月ぶりに釈放

村山浩昭裁判長は「捜査機関が重要な証拠を捏造した疑いがある」と異例の言及。「これ以上拘置を続けることは、耐え難いほど正義に反する」として拘置も停止
裁判長:村山浩昭
2014.03検察が即時抗告

静岡地検が再審開始決定を不服として東京高裁に即時抗告

この検察の即時抗告により、再審開始決定が確定せず、以後9年にわたる争いが続く。再審法改正(検察の抗告権制限)議論の主要根拠の一つ
2018.06東京高裁が再審開始決定を取り消し

東京高裁が再審開始決定を取り消す。ただし袴田氏の釈放は維持

DNA鑑定の手法(みそ漬け実験)の信用性を否定
裁判長:大島隆明
2018.06弁護団が特別抗告(最高裁へ)

弁護団が東京高裁決定を不服として最高裁に特別抗告

2018年6月〜2020年12月の間に弁護団は8通の特別抗告理由補充書を提出
2020.12最高裁が高裁決定を破棄・差し戻し

最高裁第三小法廷が東京高裁決定を取り消し、東京高裁に差し戻す

5点の衣類の血痕の色の変化について審理が尽くされていないと判断。事実上、高裁の判断を否定
2023.03東京高裁(差戻審)が再審開始を決定

東京高裁が再審開始を認め、検察官の即時抗告を棄却

裁判長:大善文男
2023.03検察が特別抗告を断念 → 再審開始確定

検察が特別抗告を断念。2014年の再審開始決定から9年で確定

再審開始決定から確定まで9年。この長期化が再審法改正(検察の抗告権制限)の議論を加速させた
2023.10再審公判 開始

静岡地裁で再審公判が開始。袴田氏は出廷免除、姉ひで子が補佐人として出席

検察は再審公判でも有罪を主張し、5点の衣類が犯行時着衣であると立証を試みた
裁判長:國井恒志
2024.05再審公判 結審

計15回の審理を経て結審。検察は死刑を求刑

検察は再審公判においても袴田氏に対して死刑を求刑した
2024.09再審無罪判決

静岡地裁が無罪判決を言い渡す

3点の証拠捏造を認定:①自白調書、②5点の衣類、③ズボンの共布。「捜査機関(警察と検察が連携した)によるねつ造」と明言。袴田氏は88歳、逮捕から58年2ヶ月
裁判長:國井恒志
2024.10検察が上訴権放棄 → 無罪確定

畝本直美検事総長が上訴権放棄を表明。無罪判決が確定

検事総長:畝本直美
2024.10検事総長が談話を発表

畝本直美検事総長が控訴断念にあたり談話を発表。「判決には到底承服できず控訴すべき内容」「ねつ造と断じたことには強い不満」と表明

無罪が確定した被告人に対して検事総長が判決への不満を公式に表明するのは異例。談話は各方面から強い批判を受け、後に名誉毀損訴訟に発展する
検事総長:畝本直美
2024.10静岡県警本部長が直接謝罪

津田隆好静岡県警本部長が袴田巖氏に直接謝罪

静岡県警本部長:津田隆好
2025.03刑事補償 約2億1700万円の交付決定

静岡地裁が刑事補償法に基づき、47年7ヶ月の身体拘束に対して約2億1700万円の交付を決定

刑事補償法の上限額(1日1万2500円)で算定。弁護団は「不十分」として国賠訴訟も別途準備
2025.09検事総長談話に対する名誉毀損訴訟 提起

畝本直美検事総長の談話が袴田氏の名誉を傷つけたとして、国に損害賠償を求める訴訟が提起されたとの報道あり

控訴断念時の「到底承服できない」「ねつ造認定に強い不満」との談話に対する訴訟
2025.10国家賠償請求訴訟 提起(約6億円)

弁護団が国と静岡県を相手に約6億円の国家賠償請求訴訟を静岡地裁に提起

警察・検察の違法捜査に加え裁判所の責任も追及。逸失利益・死刑の恐怖への慰謝料・釈放後の拘禁症状の慰謝料を請求。冤罪の原因究明も求める。再審関連の国賠訴訟として過去最高額
弁護団長:小川秀世

参考文献

冤罪と裁判
今村核 (2012) — 書籍

元裁判官が冤罪発生のメカニズムを構造的に分析。複数の著名事件に言及しており、冤罪問題を俯瞰するための基本書。

袴田事件を裁いた男
尾形誠規 (2020) — 書籍

袴田事件で死刑判決を書いた裁判官・熊本典道の苦悩と後年の告白を描いたノンフィクション。

BOX 袴田事件 命とは
監督:相田和弘 (2010) — 映像

袴田巖と姉・ひで子の日常を記録した映像作品。長期拘禁が人間に与える影響を伝える。

冤罪を生きる
里見繁 (2015) — 書籍

冤罪被害者たちのその後の人生と、再審制度の課題を描く。

冤罪学
西愛礼 (2023) — 書籍

元裁判官の弁護士が冤罪の原因・予防・救済を体系化した基本書。法律・心理学の両面から冤罪メカニズムを分析。